【特別寄稿】谷山雄二朗  –  番組共演者 / 主役ジェームズの執事 & ガイド役

※ 編集局注:3月15日、2ヶ月半遅れで日本でも放送が開始したのを受けてタイトルに邦題「ジェームズ・メイ 日本探訪」を追加しました。

 

「外人の、外人による、外人のためのエンターテイメント番組」。

そう斬り捨てるのは、 簡単だ。

ただ、実態はまったく異なる。2020年のお正月、Amazonが満を辞して世界200カ国に発射する新番組 “Our Man in Japan”は、知る人ぞ知る世界的スーパースター James May氏(ジェームズ・メイ)が北海道は礼文ならぬ稚内から、九州は博多ならぬ熊本まで日本列島を三ヶ月強かけて「徹底横断」する前代未聞の爆発的コンテンツであり、「日本人が知らないニッポン」を余すところなく、しかも「容赦なく」探求しているからである。読者諸君、外人さんの辞書に’遠慮’という言葉がないことを忘れてはいけないぜ(中国からの訪日客を除く)。

今から一世紀半前の明治初期、大英帝国の旅行家 Isabella Lucy Birdは横浜に上陸後、1878年の六月から九月にかけて江戸から日光、新潟、山形から蝦夷まで1200マイルを行脚し「日本奥地紀行」を記した。短足日本人ならぬ長脚西洋人による初の本格的旅行記として、まさに画期的な一冊であった。

「予告編」

(和服姿などでチョロチョロ登場するのが、執事役の小生でござんす)

 

 

「怪人ジェームズ・メイ氏は、三度の飯より日本好き」

1880年に “Unbeaten Tracks in Japan”としてバード氏のその著書が刊行されてから、ちょうど140年後の2020年、同じく英国人の「後輩」で足も前者より遥かに長い James May氏はほぼ同期間をかけてその倍以上、いや下手したらイザベラの三倍もしくはそれを凌駕する距離を走破した探検記を発表する。”Our Man in Japan”を直訳するなら、「わが男、日本をゆく」になろう。ただ、敢えて明治初期の名作タイトルからもじるのであれば、「日本奥地奇行」とネーミングしてもまったく遜色なき内容になっている。

しかも彼は、「人類最大の発明は、まちがいなくホンダのスーパーカブだ」と公言する親日家でもある。同バイクだけで、なんと七台も保有しているというから、まさに筋金入り。日本人として、なんとも嬉しいではないか!

ということもあり、小生としては今回の番組テーマに我が国を選んでくれてありがとう、との気持ちを常にもって撮影に望んだのであった。もしも八世紀前半に空海が「密教」を紹介したのであれば、ジェームズ氏はこの二十一世紀の「秘密のジャパーン」の伝道師たる資格をも十分に備えている。もう、ワクワクで肝臓が炸裂しそう。

 

 

訪日観光客3200万人も「ぶっ飛ぶ」ジェームズとは、いったい何者なのか?

さて。

Amazonの新番組を語る前に、怪人でありながら奇人でもあるジェームズ・メイ氏に触れるのが初めての読者・視聴者も国内には少なくないと思われるので、この際手短にご紹介しておこう。キリストにジョニー・デップをAI合成したかのような風貌の持ち主チックな同氏は、イギリスBBC放送が世界に誇る大ヒット番組 “Top Gear”の司会者として、その地位を不動のものとした天然ガスならぬナチュラル・ウィットの持ち主である。「トップギア」で検索すれば一発で出てくるが、これは1977年(彼は途中から同番組に参加)に始まった自動車系ぶっ飛びエンターテインメント番組で、「人類史上もっとも視聴者数の多いテレビ番組」と欧米では認知されている。諸君、’日本史上’ではない、全人類史上ダゾ。よって必然的にメイ氏(英国前首相のテレーザ・メイとも、バンド QUEENの弦楽器担当・ブライアン・メイとも縁戚ではないらしい)は、同モンスター番組を通じて共同司会者のジェレミー・クラークソン氏とリッチャード・ギアならぬハモンド氏と共に世界中にファンを獲得し今日にいたる、と理解してもいいだろう。

現に小生・谷山雄二朗は、今回ジェームズの “Japan Guide”役として “Our Man in Japan”に共演させて頂いたのだが、秋葉原だろうが道頓堀だろうが宮島だろうが、3200万もの訪日観光客の多くは撮影中の彼を「発見」スルやいなや、”James! I love you! Can you please take a picture with me?! OMG!” – とコカイン中毒患者の如く頭を振って絶叫するのであった!しかも彼のファンは青い目をした米英人のみならず、緑の目のロシア人、紫のポーランド人、南米人、香港人、フィリピン人、インドネシア人のみならず本来ならばAmazonもYouTubeも観れないはずのチャイニーズ観光客(VPNで当局の目をかいくぐって密かに視聴しているとのこと)に至るまで、極めて幅広いことにぼくは度肝を抜かれた。

よってジェームズ・メイ氏の「執事」である小生はいつの間にか外人観光客らの煮えたぎる切望に応えるべく、撮影の合間には四六時中彼らのスマートフォンでパシャパシャと記念写真を撮ってあげる無償撮影係に成り下がってしまったのであった。ま、これもまたある種の「おもてなし」なのかもね。

なお、この「3人名物トリオ」はクラークソンが某不祥事でBBCをクビになったため、2016年からは ”Grand Tour”と番組名を変えてAmazonプライムに「移籍」した形となっていることも付け加えておきたい。

 

 

日本人がこの番組を観るべき、8つの理由

 

さて、本題に入ろう。

”Our Man in Japan”(以下 OMJ、ないしは「アワマーン・イン・ジャパーン」とも)が我が国をテーマにした「前代未聞の番組」と先に述べたが、その理由をこの場で八つ挙げてみたい。

まず、2013年にはわずか800万足らずだった訪日観光客が、昨年2018年度には3200万人へと超激増しつつある「目指せ観光立国 Japan」時代に、OMJが出来たのは果たして偶然だろうか。ぼくは、そうは思わない。そして、”The 8 reasons why”. 以下が、OMJがこの画一化した日本、およびこの画一化デジタル時代において比類なきコンテンテツだと執事が直感的に考える8つの要素である。ちなみにこれは、独断的な私見であることも断っておこう。

 

  1. まるまる3ヶ月間たっぷりかけて、日本の「隅々」までしかも極めて本格的に舐め尽くした贅沢なチーム・撮影クルーをぼくは他にしらない。
  2. 明治初期のイザベラ・バードは、旅行記としてその体験をペンか万年筆で記録したが、”Our Man in Japan” は100日間をすべて4Kで撮った(はず)。各シーン撮影後に、最新型Macに常に素早く転送していたその膨大なデータ量もまた、比類なくastronomical (天文学的)。
  3. 学術的番組でないにも関わらず、例えばダーウィンなんちゃらなどの下手な「NHKドキュメンタリー番組」と比べても遥かに文化人類学的・教育的な要素が詰まっており視聴者を魅惑する。つまり娯楽番組ながら、そのジャンルを遥かに飛び越え「日本人とはなんぞや」という司馬遼太郎的テーマ・謎および本質に、ドストエフスキーも脱帽すべく恐るべき肉厚感をもって迫っている。
  4. 史上初めて訪日客・外人旅行者が、出国する日本人数を上回った今日の歴史的タイミング(2018年にひっくり返った)で、「超」がつくほどの有名人かつ世界的スーパースター(ドメスティック・タレントのつる兵衛とか、コカインエリカ・サワジーリーといった、兎に角そういう次元ではない)であるJames May氏が、Japanをぶった斬る。言うなれば、3200万の訪日客の「代表格」が司会をするバケモノ番組の登場。なんて壮大、いや爽快なんだ。
  5. 蝦夷地の犬ぞり、ばんえい競馬、酒蔵の神秘、島国根性・本音と建前、AIロボットホテルから近畿大学相撲部まで、とにかく多岐無数にわたる歴史伝統文化 & high-tech ジャパーンを丸裸にせんと試みる前例なき巨大な試み。これを実現すべく、欧米側のみならず日本人サイドのリサーチャー(調査班)の人員動員数も、相当な数に登るだろう。しかも、我が国側の人間の多くが極めて優秀(執事の独断的感想)であり、彼らもおそらく引き出しを「出し尽くした」のではないか。つまり、One Teamとしてジャパーンを超観光大国にせんとするプロフェッショナルな日本人の情熱とラヴの結晶こそ、この “Our Man in Japan” starring James Mayの真骨頂かと思われる。
  6. Gaijin = 外人の目を通じてこそ、我が国の曖昧(大江健三郎的)かつアンビバレントなテイストを「解明」出来たりする。それもフツーの訪日客・外国人ではなく、頭脳明晰かつ第2次世界大戦の英国戦闘機 “Spitfire”をも操縦してしまう怪人ジャーナリスト(でもある)メイ氏という青いフィルターを通すことによって、この二十一世紀における「日本なう」の本質が、滑稽なほど騎士鮮明に暴露される。繰り返すが遠慮、という文字はアングロ・サクソンには事実上存在しない。「沈黙は美徳」「揉め事は避ける」旧日本人的な感覚とは無縁な「外国人パワー」を通じてのみ、見えてくるものがある。(どうでもいいことだが、ジェームズは自家用飛行機も所有しているのみならず、自動車番組トップ・ギアの水先案内人を長年務めてきただけあってクルマ狂博士。フェラーリーも数台所有しているとの噂。カブだけじゃないのね、もう羨望でよだれタラタラ)
  7. 主人公に ‘serve’(奉仕する)する servant = 召使い・付き人共演者が、偉大なるJapanのセールスマン谷山雄二朗である。
  8. Amazonの資金力。例えば IMF(国際通貨基金)の援助なしには危うい、B級の未開国を転覆させることなど朝飯前のジェフ・ベゾス氏率いるEコマース・エリート軍団の圧倒的な「通貨基金力」により、桁違いの番組予算があったのでは、とぼくは勘ぐる者である。総スタッフ数、撮影日数、撮影ルート、探検方法は、まさにHollywood映画級。おかげさまで、生まれて初めて小豆島にも上陸したし、しかもそこから水上飛行機に乗せてもらえた。なんてラッキーOMG!

ということで、8つの理由は以上です。

 

ちなみに、欧米メディアでもOMJへの期待度は上昇中の模様。

日本独自の魅力を、これまで日本人が十分に世界に伝えてきたとは、到底認めがたいのだが、ぜひとも2020年お正月キックオフの “Our Man in Japan”にその大役を担ってほしいと切望せざるを得ない。

頼むぞ、Dr. Amazon!

 

そして最後に、この前代未聞の番組においてお世話になったすべての方々に心より御礼もうしあげます!撮影現場で協力してくださった皆さん、各地の宿の女将さん、各テーマのガイドの専門家の方々。これは、Japanを誇りに思う全国の日本人の愛の結晶でもあるのダ。ラグビー・ワールドカップで日本は、スコットランドを破った。平成二年、ぜひ脱島国根性で世界を相手に let’s “TRY”.

Good Morning Japan!

南無阿弥陀仏。