韓国のキャリアウーマンとの対話
Nov. 16th, 2015


「虎穴に入らずんば、虎児を得ず」  第4話



「西大門(Sodemun) 屋台会談」




西大門刑務所。
悪名高き、ソウルの観光名所の一つである。戦前の日本統治時代、ここ朝鮮で無数の朝鮮人が反日活動に従事し、捕まり、投獄、拷問されたとされる場所だ。ただ、そこで述べてられている事柄一つ一つが「歴史的事実」に基づいたものなのかどうかは、私はまだ同博物館を訪れたことがないので分からない。


王氏と「日中路上会談」を行った翌日。この日は、安倍政権後初の日韓首脳会談が行われる日である。なんせ2日間で百枚のDVDを「ちょっと早めのX’mas プレゼント」として、手渡しせねばならない。残りは、あと三、四十枚といったところか。ホテルを出た野武士サンタは、午前中は東大門にてディストリビューションを行った。チャイナデイリー紙が英字新聞を無償配布するなら、JBは英語DVDで対抗するしかない。勝手に燃えている自分がいた。

きらびやかなファッション街であるこの「トンデムン」は、平日の朝から人で溢れていた。豪華絢爛なLotteデパートがここにもあり、その周辺で野武士は “Excuse me, do you speak English sir!?” - とミッションを開始した。何枚か配った後、ふとあるご老人が新聞を読んでいる姿が目に飛び込んで来た。 (写真)


日中韓首脳会談の模様は、朝鮮日報と東亜日報の二大紙で、実に大きく取り上げられていた。韓国がホスト国ということもあり、注目度が高いようだ。



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遅めのランチを済ませると、午後は東の正反対の西大門、すなわち「ソンデムン」刑務所エリアに飛び込むことにした。地下鉄で移動する際も、乗り換え地や駅構内でDVDの配布を黙々と続ける。西大門駅に着くと、地下通路沿いに設置された「韓国おでん屋さん屋台」があった。四つか五つしかない席の一つに、ビシッとスーツで決めた “若いヒラリー・クリントン”チックなキャリアウーマン風の女性が座っていた。他に客はいない。串刺しのような「肉」を一度食べてみたいとも思っていたので、隣りの席に陣取る。

「イゴヌン オルマエヨー?!」(これ、一本おいくらですか?) と聞くと、700ウォンだという。セルフサービスでいいのか、いまいちその後のプロセスに苦慮していると、その”ヒラリー”が御丁寧に説明してくれた。ロサンジェルス育ちという彼女は、英語をそれこそ次期大統領候補の如く操る。以前にも述べたが、とにかく韓国国民はここ数年で英語力を大幅に向上させた感がある。路上で話しかけても、10人中8割以上はしっかりしたENGLISHで対応してくれたし、そのお陰でDVDの配布がスムーズにいったこともいうまでもない。グローバリズムに対応した彼らの英語力は、JBの新番組 “Bullshit Japan”- [ブルシット・ジャパン] の中で外国人観光客がしばしば嘆き、指摘する「英語が苦しいほど通用しない国、日本」とは、極めて対照的であり、我が国の文部科学省式英語教育に欠陥があることの裏返しでもある。


串刺しの「肉」は、じつは「魚」のすり身だった。チクワが、「モツ」のような形状に加工され串に刺されていたのであった! その事を説明してくれた “Hillary” に、御礼を込めて「キミは慰安婦問題って聞いた事、ありますか!?」と尋ねてみた。会社の休憩時間におでんをつまみ食いに来ているのであろう彼女は、 “What?!” と不思議な顔を一瞬みせたが、ニュースとかで聞いた事があると言った。「日本と韓国は隣り同士で、こうしておでん屋さんでも国民同士は仲良くなれるのに、この歴史問題一つのせいで政治的に長年対立してきた。最悪だよね」と述べると、野武士は韓国風鉄砲巻きを一つ追加オーダーした。その価格、1000ウォン。(110円強)
会話の内容は、ここでは詳しく触れないが、とはいえ米国育ちの韓国人 “Hillary Clinton” (HC) に野武士が特に強調したことを要約すれば次の通りである。


「韓国の教科書に載っていないことが、このドキュメンタリー映画では知ることができる。日本人の東京基督教大学のTsutomu Nishioka 教授だけでなく、シカゴ大学の Bruce Cumings, サンフランシスコ州立大学の Sarah Soh、AP通信の Peter Arnett記者、さらには米ジャーナリストの Susan Brownmiller など、極めて多角的にこの「戦争と性」の問題にチャレンジしているんだ。なにも日本側の主張にフルに共感してくれとお願いしているわけじゃない。そんな押し付けがましいことをやるために、わざわざソウルに飛んでこないさ。そうじゃなくて、韓国および国際社会で蔓延している “200,000 Sex Slaves kidnapped and raped by the Japanese Army” (原文ママ)という「今日の常識」が、いかに “Highly questionable claim” (いかに疑問の余地があるか)を知って欲しいんだ。Democracyというのは、何も上から押し付けられた「一つの真実」に固執することではなく、多様な意見に耳を傾けることでしょう。確かにあの元慰安婦のグランマたちは、それは苦労されたと思う。ただ、この問題を突き詰めて行く時、根底にはもっともっと複雑な社会構造、および “Patriarchal system”(家父長制)そして当時の習わしなど様々な要素が絡み合っていることに気付くのさ。単に「日本軍が二十万人を拉致して殺した。はい、謝罪しなさい」とまとめられるほど、シンプルなものじゃないおことが、この映画を観てくれたら少しは分かってもらえると思う。カムサムニダ」


わずか10分強という短い「西大門屋台会談」ではあったが、”ヒラリー・クリントン”は米国仕込みのキャリアウーマンということもあり、飲み込みが早く決してヒステリックな拒絶反応を見せなかった。肯定もしないが、否定もしない。答えはまず映画を観てから、という態度だった。自画自賛させて頂くが(笑)、韓国屋台にて心の通った日韓交流が出来た。別れ際、彼女は「ごめんなさい、仕事に戻らなくちゃいけないのでお先に失礼するわ! It was nice talking to you! あ、あとアナタの串刺しと鉄砲巻き代はもう払っておいたから。ほら、DVDをプレゼントしてくれた御礼よ」と握手すると風と共に去ってしまった。そのスマートな気配りと去り際も、さすが「韓国のHillary」といったところか。野武士は、彼女の温かき心遣いに胸がほっこりしたのであった。



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西大門駅の路上に出ると、「刑務所」らしき表示は皆無であった。その代わり、「ソウル歴史博物館」は、4番出口と記されていたのでまずそちらを目指すことにした。なんせ「歴史」ミュージアムなのだから、歴史問題解決を訴えるには確かな “オーディエンス”がいるに違いないと考えたのである。

歩くこと十五分ほど、やがて同博物館に到着した。人影が殆どない広々とした館内ロビーを横断し、正面階段を展示室の方向へ登って行くと突然係員に静止された。



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「今日は休館日です。カフェしかご利用いただけません」と事実上の退去を求めてくるではないか。

せっかく足を運んだのに門前払いされるのも癪だったので、せめてここに来たという「形跡」を残そうと、係員のJ氏(胸元の名札には、Jから始まる名前が刻まれていた)に自分が東京から来ていることをまず伝えた。すると、その途端、JYJのジュンス似の彼は嬉しそうに「ポクもトーキョいったことアリマス」と原宿、渋谷、ダイカンヤマとの地名を嬉しそうに語り始める。その流れでの日韓友好。私はバッグからDVDをさり気なく取り出し、Jにプレゼントした。”Please watch it when you have time sir”. 彼もまんざらではなく、白い歯を見せて受け取ってくれた。

こうして、ソウル歴史博物館に「新たなる歴史認識」を伝授することには、ある意味で成功したのかもしれない。








「旭日旗」



西大門刑務所の場所をマークした地図を、Jから受け取った野武士は、そのままその方向へ歩き始めた。なんせ前日にDVD60〜70枚背負ったまま6時間ノンストップで「ミョンドン→ 南大門→ ウルチロサガ → Jonggak → Jongno 3 ga → Euljiro 4 ga」と立ちっぱなし歩きまくりプロモーション活動を展開したせいだろうか、この日はかなり腰が痛い。どうであれ、私は再び以前来た道の道路の反対側をソンデムン駅方面へと引き返し始めた。

駅300メートルほど手前だっただろうか。前方から若干小太りの青年と、またまたJYJジュンス似の痩せたナイスガイが前方からやってくるのがみえた。私は躊躇せず、 “Excuse me sir, can you please tell me the way to the Sondemun prison!?” と尋ねたのだった。彼らはこの地区にある大学の学生であった。
LGのスマホを使い行き方を説明してくらたのは、痩せ形の方だった。ここでは彼をLGと呼ぶ事にしよう。逆に、太っちょ系のほうは白いiPhoneを持っていたのでiPと呼ぶことにする。

きめ細かい案内してくれた御礼として、私はバッグから2枚のDVDを取り出し、彼らに主旨を説明した上でプレゼントした。



LGはありがとうと笑みを浮かべたものの、DVD表紙をみて何かが引っかかったようで、すぐにスマホで何かをGoogleし始めた。いや、ここは韓国なのでサーチエンジンは正直 “Naver”だったかもしれないが。いずれにせよ、すぐさま彼のスマホディスプレイには、なぜか旭日旗が幾つも表示されていた - LGはそれを野武士に見せると、柔らかい口調で言ったのだった。

「このDVDのカヴァーにあるマークですが、ボクはこれが好きではありません」、と。


いきなり何を言い出すのかと思いきや、日本海軍のシンボルで今も海上自衛隊を象徴するフラッグに対し、LGは嫌悪感を抱いているのであった。やれやれ、これは前途多難かもしれない。
“This is Japan’s famous Rising Sun flag. It is a very sad thing that you resent it”(これは日本の旭日旗です。キミがこれが嫌いということは、日本人として残念なことです)と、私は言った。彼は苦笑いした。朴大統領率いる韓国政府は、しばしば「正しい歴史認識」というフレーズを用いるが、つまりこの旭日旗一つとっても韓国では「ナチス」「軍国主義」の象徴として受け止められているのであろう。というか、大学生のLGが今回のような反応をみせるということは、即ちそういう教育を行っていることの証でもある。また、ロンドンオリンピック2012だったと思うが、日本代表の応援団が掲げる旭日旗に対し、韓国市民団体がFIFAに「あの軍国主義の旗は禁止すべきである」との抗議を行ったことも記憶に新しい。

極めて残念なことではあったが、つまりこれ一つとっても日韓両国民の間には「歴史認識のギャップ」が生じているのだ。私がLGに「このマークでキミが不快な想いをしたのだとすれば、素直にお詫びするよ。ただ、これは伝統ある日本海軍の旗で、決してキミや韓国の人々を冒涜するつもりなどまったくない。それだけは分かって欲しい。これも単なるDVDジャケットにすぎないんだから、そう深く執着しないで take it easy!」と言うと、彼は静かに頷いた。


しかしその直後、隣りでやり取りを聞いていたiPhoneは、すかさず次の写真を野武士に突きつけてきたのであった。


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短編「戦後70年のペリリュー島」

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「米国の議会演説で、アベは人身売買を認めた」


つまり彼は、この画面を野武士に見せ「慰安婦= human trafficking =人身売買」という構図を遠回しに主張しているのである。そして現にこう言った。

「イルボンのアベは、今年の4月にアメリカの議会で演説した際にイアンブたちが人身売買の犠牲者だったって認めたじゃないか! キミはまさかそれを否定するのか!」

その時、野武士はこのイシューへの関心が極めて高く、実によく「勉強」している韓国の強者大学生iPhoneと対峙したことを実感した。そしてそれが純粋に嬉しかった。心の底から議論できる気がしたからである。これもまた運命なのかもしれないが、どうであれ今回は油断ならぬ「日韓路上会談」の始まりでもあった。


肥満系ながらチャーミングな感じのするiP(以後 iP) は、興味深そうにDVDの説明文を読んでいた。そして “Comfort Girls” の二文字を見つけると、「ああ、これはイアンブの話ですか」と聞いてきた。私は迷わず「そう、日韓の友好を妨げている歴史問題の筆頭格、Comfort Women= 慰安婦= イアンブをテ−マにした作品です」と答えた。すると「アナタは、シンゾーアベの側に立っているのですか」と畳み掛けるように言って来たので「つまり?」というとiPは「アベは嫌いです。彼は謝罪をしません。なのでぼくは納得できない。アナタの名前は...」「YUJIRO」「ああ、そう、ではYUJIROはアベのサポーターなのですか」と言って来た。「ぼくはアベシンゾーのファンクラブには所属していない。彼に派遣されてここソウルに来た訳でもない。政治家、それもアベ総理と韓国の朴大統領という首脳レベルまで来ると、お互い言いたくてもいえないことが山ほどあり、嘘っぱちもいう。でもぼくは君らと同じ民間人であり、アベうんぬん関係なくまずは何がTRUTH(真実)で、何がLIE(嘘)かを見極めることが重要だと考え、このDVDをつくったんだ」




LGが、小さく隣りで頷いているのがわかる。
私は畳み掛けるように続けた。「ここ韓国にもLIAR(嘘つき)は沢山いるだろう。それはイルボン(日本)でも同じだ。自らの利益のために平気で事実を歪曲する勢力は、イルボンにもゴロゴロしてるんだ。ではこのイアンブ問題で嘘を突いているのは一体どこの誰なのか、一度立ち止まって考えてみようじゃないか」
固定観念でガチガチのiPhoneとLGは、「性奴隷説」以外にどうやら考えたこともなかったような反応をみせる。そこで野武士はある写真を彼らにみせることにした。



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「朴政権が、今から15ヶ月後の2017年から、”Accurate History”=正しい歴史認識を韓国国民に”force”=強制すべく、現在ある8社から国定教科書一つに変更することを決定したのは知ってるよね」
「Y....Yes」
「でも、この写真はどうだい?! ここ、地元ソウルの高校生たちが「歴史教育の死だ!押し付けるな!」と言わんばかりの反対デモを行っているじゃないか。その理由は何故なのか!? そこを考えて欲しいんだ。Democratic society (民主的社会)では、多様な物事の考え方が存在するのが許されている。そしてそれは、キミらが日本を糾弾するイアンブにおいても例外ではない。この写真に映っている韓国人高校生たちは、朴政府の”正しい歴史認識”が正しいとは決して思っていないのさ:だから抗議の声をあげているんだろう。しかも彼ら以外にも、韓国の大学教授400人以上が抗議声明を出している。日本人のマジョリティーの考えもこれとある意味同じで、イアンブにおける”韓国にとっての正しい歴史認識”が必ずしも正しいとは思っていないのさ。だからその点においてはアベしンゾーを支持している。残念ながらその点においては、ぼくも例外じゃないさ」

饒舌なiPhoneは、押し黙ってしまった。しかし何も、野武士の目的は彼らを論破するといったチッポケなものではない。「日韓路上会談」 - という名の草の根交流である。


「ちなみに余談だけど、残念ながらぼくはフェミニストという類の人々はエキセントリックすぎて正直好きじゃない、とくにチョンデヒョップ(挺対協)は嫌いだね。あれはアルカイダーだよ」
するとiPが、若干ハングル訛りの英語で反論してくる「ちょっと待って。それには反対だ。テロリストだってこと?」
頷くと、彼は直ちにGoogleり、険しい表情でiPhoneのディスプレーを見せた。
「これだろ?」
そこには”Ministry of Gender equality and family” (韓国女性家族省)の公式HPが映し出されていた。「いやちがう、それじゃなくて Chong Dae Hyup, フェミニスト団体だよ!彼女たちがイアンブ問題を解決困難にしているモンスターたちなのさ。日韓政府が対立することによって、お金がこの団体に流れてくるシステムを構築したんだぜ」と叫ぶと彼は「チョングマル?!」(マジ?!)といった表情を見せながらも、さらにネットサーチを始め、すぐさまそのエキセントリックな女性活動家たちのサイトに辿り着いた。彼ら現役大学生二名は、YesともNoとも取れない煮え切らない態度をみせると、iPが何を思ったか次の画面を私に突きつけて来たのだった。



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つまり、「あなたは右翼ですか?」と。どうやら朝鮮半島では、歴史問題を語る日本人になるといきなりこういう結論になってしまうらしい。

“ Dear friend, unfortunately I do not work for the right-wing organization, nor do not work for IS, or the terrorists” - 野武士が笑顔で否定したことは、言うまでもない。


しかしながら、この2人の韓国人大学生は怯む事無く、忌憚なきディベートをさらに仕掛けて来たのである。日本と韓国という最も近く、そして遠い隣国が今後友好関係を実際に築いて行けるのかどうかの試金石ともなりうる形で。

続きは、次号最終話にて。


(「虎穴に入らずんば、虎児を得ず」第4話おわり - 最終話第5話に続く)



 谷山雄二朗 - Editor in chief for JB 編集長





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