日本人と、韓国人の"歴史認識"のギャップの本質に挑む
Nov. 6th, 2015


「虎穴に入らずんば、虎児を得ず」


2015年11月1日、朝10時。約三年半ぶりに開催される日中韓首脳会談当日に、私はソウルの繁華街ミョンドンの地に立っていた。慰安婦をテ−マにした映画「スコッツボロー ガールズ」のDVD100枚を、現地でディストリビューションするという草の根外交を展開するためである。 11月2日には、安倍政権初となる朴大統領との日韓首脳会談が公式に行われる。 両政府首脳がいくらRCEPなど日中韓FTA、北朝鮮問題で協調姿勢を示そうとも、日韓最大の「トゲ」である歴史問題に関してはまったく進展は見られないだろう - であるならば日韓国民同士のダイレクト対話というカタチで、理解を深める第一歩を踏み出せたらと考えたのである。もちろん、韓国における”歴史認識”が「200,000人の性奴隷=慰安婦」として定着していることは、百も承知だ。そして「公式謝罪」を求めていることも。


方や、我が国のスタンスは1965年の日韓基本条約で慰安婦は解決している、というものだ。この両国の隔たりは極めて大きい。しかしながら、ただ今現在のこう着状態を指をくわえて待っているだけでは何も変わらない。前進しないではないか。ましてや「解決」など夢のまた夢。そこで私は考えたのである。ならば日韓両首脳が出会うこのタイミングで現地の人々に「韓国の教科書には決して載っていないモノの見方がある」ことだけでも知ってもらえないだろうか、と。そう願い、飛び込んだまでである。


余談だが、ミョンドン駅に向かう途中、情けないことにサムガクジ(三角地)駅で4号線への乗り換えルートが分からなくなってしまった。ご存知の読者もいるだろうが、ソウルの地下鉄は東京METROに比べて乗り換えの祭に歩く距離が、極めて長い。500メートル歩くなどざらである。幸運なことに、20代後半風の韓国人女性(ここではティアラと呼ぶ)が流暢な英語で行き方を教えてくれた。「カムサムニダ」と礼を述べ去ろうとすると、なんと彼女は4号線の乗り換えホームまで連れていってくれる、と言うのだ。申し訳ないやら有難いやらで、結局はティアラのお世話になってしまった。3、4分は歩いただろうか - 立ち去ろうとする彼女に、私は「Wait a minute!」と言いバッグからスコッツボローガールズのDVDを一枚取り出し、プレゼントした。
「今回の御礼に、プレゼントしたい。これはドキュメンタリー映画。日韓には政治的対立があるけれども、我々国民レヴェルではこうしてチングー(トモダチ)になれるし、いや、なるべきだとおもうんだ。Mutual understanding = 相互理解っていうのかな」
ティアラは、慰安婦少女の銅像がプリントされたDVDのカヴァージャケットとにらめっこしながらも白い歯をみせ、頷き、受け取ってくれた。


私は深く礼を述べ、彼女と別れたのだった。





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青天。気温も五度前後と、お日様が出ているのでさほど寒くない。日曜の朝のミョンドンのメインストリートは、10時すぎだと言うのにすでに多くの人が行き来している。「アウェー」に乗り込んだ筆者だが、韓国はDemocracyすなわち民主主義の国だとの大前提を胸に、スコッツボローガールズDVDのディストリビューションをキックオフした。普通の民主主義国家であるならば、当然「Freedom of Speech=表現の自由」も保障されるものだからだ。

とはいえ、朴大統領のような年配の世代に声をかけても「強制連行された性奴隷」との固定観念でガチガチであることは明白だったため、10代、20代、30代の若い世代に直接訴えることにした。ましてや本編は全編ENGLISHであるため、上の世代の人々にはそもそも通じないとの計算も働いたからである。


余談だが、本コラムは「虎穴に入らずば虎児を得ず」のタイトルで、数回にわけてみなさんにお届けしていく予定だ。"コケツ"といえば、数ヶ月前も"敵地" アメリカ合衆国のワシントン州に乗り込んだわけで、そうした意味ではある程度の免疫はできているつもりだ。


前方から20代風の韓国人が歩いてくると、私は近寄り “Excuse me, do you speak English?!”と声をかける。すると今回驚愕したことは、彼らのじつに9割以上が英語を流暢に喋れるということであった。たまたま私が声をかけた人々がそうだったのかもしれないが、いずれにせよ我が国の英語教育が韓国のそれに大幅に遅れを取っていることだけは身にしみて感じたことだけは確かだ。このままでは、ただでさえ低下している国際社会におけるプレゼンスにおいて日本は劣勢に立たされるであろう。言葉とは、それほど大事なものだからだ。

いずれにせよ、野武士谷山雄乃字はモクモクと “Hello, do you speak English!?” と声をかけ「日本から来たんだけど、イルボンは好きですか!?」と尋ねる。私が聞いて”NO”と答えた人は1人もいなかった。




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ある女性(ここではBoAと呼ぶ)の場合、「NARUTOは、最高だよね」というと「いや、ワンピースのほうがGOOD!」という。そうしたアニメ交流やり取りを何度か行い、次に本題の歴史問題に入る。
「じつは今日、Prime Minister Abeがここソウルに来るんだよ」
「Oh, really!? 」
「そう、チョングマル(本当)
というと、それまではマッコリのようにニッコリ笑顔だったBoAの表情が、曇っていく。言うまでもないが、我が国の総理大臣は、こちらでは相当不人気なようである。だからこそ、野武士はすかさず先手を打つ。
「いや、ぼくはね、ミスター・アベのベストフレンド(親友)でもなければ、彼が水面下で放ったスパイでもないんだよ」
ふと彼女の緊張が溶けるのがわかる。
「でも、キミの国のPresident Pak Geun Hyeのファンクラブにも所属してないさ」
「Oh! わたしも別に彼女が好きってわけじゃないわ」
「I see.... でも、AbeサンとPakサンは四六時中犬と猫の如く喧嘩しているよね」
「..........」
「だからこそ、ぼくら国民同士がスーパー・チングーにならなきゃいけないんだ。政治、歴史問題でぶつかっているならば尚更さ。パク、いやボクどらえもん。キミはのび太」

二秒ほど微妙な沈黙が流れたが、そのタイミングでDVDを取り出す。
「これは、日本と韓国のフレンドシップを阻む壁となっているテ−マを扱ったドキュメンタリー映画なんだ。ぜひ一枚プレゼントするから、今日おうちに帰ったら観て欲しい!」
BoAはジャケットを観てすぐにその内容を察したようだった。そこですかさず
「この映画を批判しても、けちょんけちょんにしてもくれてもぜんぜんOK! それが、Democracyって奴なんだから。多様な物の見方。多様な意見。だってここは北京じゃないでしょう?! 日本人知識人だけではなく、韓国人のセーラ・ソー教授の意見や、シカゴ大学のカミングス教授の意見など、色んな角度から慰安婦問題を考える内容になっている。韓国の教科書に載ってない史実も盛りだくさん」

“ I see...”

というと、彼女は静かに自分のバッグの中にDVDパッケージを入れたのだった。

「敵地」において、野武士の長い長い一日が始まったのであった。



 (「虎児に入らずんば、虎児を得ず」第1話 おわり)



  谷山雄二朗 - Editor in chief for JB 編集長












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