オランダ政府の売春婦か、日本政府の賠償か、
 米国介入による韓国の口封じか」
 JB編集長 谷山雄二朗
  Dec. 31, 2015



それは、南シナ海・東シナ海における中国の軍事進出阻止を念頭に置いた、妥協の産物であった。


10億円と、日本政府の責任を認めた総理大臣の謝罪が、その「政治解決」の代償だった。 それが、2015年12月28日の「歴史的」日韓外相会談の結果である。そもそも私は先月の訪韓後に書いたコラムで「政治解決は充分可能だろうが、それと根本的解決は別次元の話である。後者に は少なくとも20年はかかるだろう」と述べた。 よって今回、安倍内閣がこの問題を極めて安易に、駆け込み的かつ「政治的に処理」したことに対し、多少の脱力感はあるもののこれといった驚きはない。ただ、ユニークというか極めて皮肉な点は今年の夏に発表された所謂「安倍談話」において総理が「未来の子供たちに謝罪させない。負担を背負わせない」 - と述べられたにもかかわらず今回の「10億円謝罪合意」により、逆に日本の子供達は国際社会に対し半恒久的に「謝罪」せざるを得なくなった、という事ではないだろうか。「肉を切らせて骨を絶った」と、総理は早くも年末ゴルフをエンジョイし、政府関係者は胸を張っているのかもしれないが、残念ながら事態はそう単純ではなさそうだ。


サンフランシスコ州立大学のセーラ・ソー教授は、自著 “Comfort Women”の中でこう指摘している。

"The Dutch government regards the comfort system primarily as "prostitution"
- San Francisco State University Professor Sarah Soh [Comfort Women - P.141, last paragraph]
「オランダ政府は、慰安婦システムを基本的には売春制度だと考えている」と。
 (右ページ最終段落の一行目、二行目)


1994 Dutch government prostitution.png



これは1994年に同国政府がレポートに「慰安婦システムは、根本的には売春制度だった」と公式見解として記したことを根拠にしている。アムステルダムでは、売春は合法だ。彼女たちは "Sex Worker" として市民権を得ているし、最近銭湯で会ったオランダ人に聞いたところ「一回40ユーロほどで、持ち時間は20分」らしい。いずれにせよ、そのオランダの政府が発表した同レポートでは、確かに女性が強制連行されたケースもあった(ヤン・ラフ・オハーンさん等に触れ)とも述べているものの、とはいえ全体像で見るならばそれは「売春業」だったと指摘しているのだ。まず、この大前提を読者にご理解頂いたうえで、戦後七十年を締めくくる本コラムを綴りたい。


1991年8月14日に、初めて実名でカミングアウトした元慰安婦、Kim Hak sun氏。あれから二十五年もの間、日本政府は国際社会に対し事実関係をまったく発信してこなかった。その代わり、あろうことか謝罪を繰り返して来た。「揉めごとを起こすのは怖い。ならば早いところ頭を下げ片付けちゃえ」という政治家たちの思考停止の産物が、河野談話と村山談話だった。

よって世界の人々は、決して欧米メディアで報道されることのないこのオランダ政府の公式見解一つとっても知らない。知り得ない。しかし我々日本国民の多くは、国際社会に流布している「200,000人強制連 行&性奴隷説」が事実と異なることを知っている。残念なことに、この「二十万性奴隷セオリー」は今回の総理の Apology = 謝罪により世界で定着することが確定的となった。そう考えると、果たして「日韓国交正常化50周年」という枠にこだわるあまり、駆け込み「政治解決」する必要があったのかどうか首を傾げざるを得ないのみならず、そもそもこの「合意」が実際に「解決」と呼べる代物なのかどうかは、甚だ疑わしい。それは、日本側が謝罪し「責任」を認め10億円を支払い汚名を被ったのに対し、韓国側は在ソウル日本大使館前の慰安婦像を撤去する、と確約した訳でもなく単に「努力する」との希望的観測を表明したに過ぎない一点をとっても安易に想像できよう。歴代大統領全員が逮捕され投獄されてきた大韓民国なる汚職当然の国家に対し、こうした詰めの甘さが官邸の外交的失態であることをどう否定できよう。朴政権をどう信頼できよう。

うるさい日本人、こと谷山某が今回の「最終的かつ不可逆的合意」を懐疑的にみる理由は、他にもある。例えば、韓国を代表する大新聞・朝鮮日報紙は12月30日、元慰安婦のリー・ヨンス氏をこう形容した。

[大邱は李容洙さんの生まれ故郷だ。15歳だった1943年10月、「隣人に呼ばれて外出したところ、ほかの女性4人と一緒に日本軍に連れて行かれた」という] (朝鮮日報 2015.12.30)

長野産の真っ赤なりんごは大好きだが、この文章は真っ赤な嘘である。それは、この予告編映像の中でも明確に証拠を提示した上で指摘している。1993年に初めてカミングアウトしたヨンス氏は、実際はこう証言しているからに他ならない。

「1944年の秋、私は地元友達のプンスンちゃんと一緒にママに内緒で家を出た」(Lee Yong su 1993) と。しかも、「彼女は赤いドレスと革靴の欲しさのあまり、ホイホイ斡旋人に心を踊らせながらついていった」とサンフランシスコ州立大学のソー教授も先ほどご紹介した本のなかで認めている。にもかかわらず、12月30日の記事では朝鮮日報の副局長という責任ある地位にあるお方が、厚顔無恥にもこうした事実関係を直視せず、無視し、その代わり捏造に捏造を繰り返したヨンス氏の虚言を、そのまま「真実として」引用しているわけだ。しばしば韓国メディアは、「日本は歴史を直視せよ」と糾弾するが実際その言葉が当てはまるのは朝鮮日報や Yonhap News Agency を始めとするコリア側だ。早い話、韓国を代表する朝鮮日報という名のメディアさえが、こうした低落ぶりである以上、日々こうした歪曲記事を読んでいる一般の韓国人が今回の「10億円合意」を認めず、反故に向けたムーヴメントを展開するポシビリティは極めて高い。そしてそれは、韓国政府が抑えきれるものでもない。長年にわたる同国内の反日教育によって、ソウルから釜山まで広く蔓延する反日感情が恒常でないことは先月、ソウルの明洞で路上インタビューを行った際に私が肌で感じたものだ。「安倍晋三は狂っている」と、リー・ヨンス氏は合意後に批判したそうだが、実際にクスリをやっているかもしれないのがどこの誰かなのは賢明な読者みなさんにご判断頂くことにしよう。どうであれ、我々がこうした ERRATIC、即ち常軌を逸した方々と戦っている点を強調しすぎることはない。



今回の一連の動きを、AP通信、BBC放送および中東Al Jazeeraを始めとする国際メディアはトップ記事で速報した。裏返せば、それほど関心が高かったということだ。そして結果的に、日本政府は毅然と戦う道を破棄し、妥協&ショートカットの道を選んだ。言うまでもなく、私はこの問題の解決を望む人間だ。某国のヒステリックな民間団体のように、必要以上に煽ったりするつもりはない。それどころか逆に「解決するための方法」を自分なりに模索してきた。日本人としての主張を毅然と伝える - との考えのもと、国際社会が知らない事実関係を淡々とわかりやすく英語で伝えるドキュメンタリー映画などの製作に携わって来た。数ヶ月前には渡米し、ワシントン州で映画の米国プレミア上映・スピーチをぶってきた。在ソウル日本大使館前のみならず、シアトル近郊でも Chong Dae Hyup (挺対協)なるフェミニスト団体の妨害に会った。彼らは映画の上映そのものを阻止せんと凄まじいロビー活動を展開したのだった。私は野武士にすぎないが、それでも真実を武器に、ユーモアを胸に(これは海外ではとっても大事。東大教授のように真面目なことをマジメに黒板に向かってつぶやいても無意味)歴史的捏造と真っ正面から対峙せんともがいてきた。元慰安婦のヨンス氏の証言の変遷をみれば一目瞭然であるように、「敵」は低能としか思えない嘘をどんどんついてくる。もう、まるで俳優 Ben Stiller のコメディーのように! 茶番、すり替え、捏造、歪曲、詭弁。これらはもはや当たり前。つまり国際社会における「歴史」なる壮大なテ -マは、虚像と実像の狭間で常に揺れ動いているのだ。時の為政者が、そしてロビー力のある勢力が己の都合のいいように書き換える - それが残念ながら現実ではないかとアルジャジーラの歴史討論番組に出演した時も、アメリカ滞在中も改めて痛感したのだった。よって日本政府の今回のアクションを「肉を切らせて骨を絶った」と解釈できるのか否かは、現時点では極めて不透明な情勢だ。宣伝戦争、特に慰安婦というのは、それほどコンプレックスなイシューだからである。


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我が国は、情けない事に自力で己を守れない国家ということになっている。そしてそこに 暮らす日本人も、その半熟卵の如き「半人前国家」の下で従順に飼いならされている。少なくとも、この国で教育を受けた人間はそうなるように仕組まれているのだ。それはこの七十年間、未だに全国二十九万人を誇る日教組が教育を牛耳る我が国がたったの一度も憲 法改正を成し遂げていない現実が裏付けている。同じ敗戦国でもドイツは、五十回以上改正しているのに、だ。水戸黄門のように「お上」や権力に弱い我が民族は、去勢された子羊のようになってしまった。それを嘆いてあの三島由紀夫は腹を切った。そして今回、安倍政権による「事実上の謝罪外交」で腑に落ちない、裏切られた、と感じている人も少なくなかろう。断固たるリーダーシップは総理大臣たるもの不可欠だが、それが単なる人畜有害の独断 となれば話は別である。
国民を欺き、有権者を「舐めている」結果になりかねないからだ。ましてや岸田なる外務大臣は以前、長崎軍艦島を世界遺産に登録する際 Forced to work は、なにも朝鮮人の強制労働を意味しません"との詭弁で国民を愚弄した前科がある。英語を少しでも勉強した事がある人なら分かるだろうが、言うまでもなくそれは嘘であり、また国内向けのパフォーマンスにすぎない。こうした「国民を去勢された子羊だと思い舐めている」行為 を平気で行った人物が、今回の「歴史的合意」を手掛けているというのだから私が半信半疑になる理由も、多少は察していただけよう。



そしてまた、政府による政治的「解決」により結果がでない可能性も、残念ながら充分にある。それは韓国挺身隊問題対策協議会 (Chong Dae Hyup)なるフェミニスト・ロビー団体が、「日韓歴史的解決」の内容に猛反発している点からも伺える。たかが女性人権団体と軽視するなかれ。私はソウルで彼らを取材した時も、そして米国でも、その圧倒的なロビー力を肌で感じて来た。果たして“歴史的合意”に報道通り「国際社会での相互の批判・非難をしない」という言語明瞭意味不明の一文が含まれていたとしても、 Chong Dae Hyup が2016年以降、日本の非難をしないかと言えばその可能性は皆無であろう。「政府関係者は合意したかもしれないが、我々民間団体はそんなものに縛られなイムニダ」と一蹴するに違いないからだ。韓国政府にChong Dae Hyupを制御する力があるかといえば、やはりそれもあてにしない方がいい。それは前述した通り朴政権が「慰安婦像 を撤去するよう "努力する”といった玉虫色の表現を用いていることからも分かる。とはいえ、安倍総理の “計算”があるとすれば「もう日本を非難しないと韓国政府は国 際社会に公言したのだから、Chong Dae Hyupが今後サンフランシスコ、シアトルに慰安婦像を設置し我が国を非難する動きをみせても、同じ韓国人として韓国政府が彼らを説得・阻止してくれるはずだ。米国も看過するまい」といったものに違いない。でなければ、“最終的かつ不可逆的に解決した合意” など絵に描いた餅にすぎなくなる、と。


とはいえ、総理のその“読み”に狂いが生じる可能性は極めて高い。なぜならば、米国カリフォルニア州選出の下院議員マイク・ホンダ氏など「反日議員」にお金をバラまきロビー活動を展開し、 慰安婦像を次々と米国内に建立させているフェミニストたちの多くはじつは「米国人」 だったりするからだ。よって韓国政府の力がまったく及ばない範中どころか、”後見人”なるアメリカ政府がいくら韓国系団体に「自制を求めた」としても “Democracy & Free speech”の名の下、まったく手 を出せない「アンタッチャブル」な存在こそが、現場の活動家連中である点を見落としてはなるまい。Chong Dae Hyupとの深い関わりがある人々たちであることは間違いなかろうが、とはいえ「米国人」しかも「女性の尊厳を貶めた性犯罪国家ジャパン」を非難する “大義”を、表向き彼女たちはもっている。だからこそ極めて強気なのだ。そう、何を隠そう慰安婦問題は「女性の人権問題」としてアメリカ合衆国の活動家たちの象徴にまで登り詰めてしまっているのだ。その結果、2015年9月にはサンフランシスコ市議会が、米国大都市の "San Francisco"でもついに「200,000人の女性が日本軍により強制連行 & レイプされた」慰安婦碑が建立されることが決まってしまった。つまりこの慰安婦なる歴史問題は、すでに日本、韓国の手を離れ北米大陸で独自の展開をみせているのだ。このままでは、私が半年前に訪れたシアトル、さらには国境を越えてカナダ・ヴァンクーヴァー、下手したら大陸を超えてシドニーへと飛び火しかねない不安材料を抱えている。だからこそ、いくら永田町と青瓦台が「最終的かつ不可逆的に解決した合意書」にたとえ調印したところで、残念ながら慰安婦像のさらなる建立および非難合戦が止む合理的理由は皆無なのである。


そしてまた、繰り返すが米国政府が Chong Dae Hyupと連携した韓国系フェミニスト民間団体に「自制」を呼びかけたところで、「言論の自由とデモクラシー」に最大限の価値を置く同国においてそれが焼け石に水に終わるであろうことは、少しでも欧米メディアに精通している人間であればわかるはずだ。

釈迦に説法かもしれないが、中国の進出に対処すべく日米韓の軍事協力を高めたい米国がその点をひた隠したまま、甘言で安倍総理を巻き込んだ可能性も決して否定できまい。私は反米ではないが、"うるさい日本人" として言うべきことは、堂々とアメリカに対しても主張すべきは主張せねばもはやこの国は持たないと考えている。なぜならば米国が世界唯一のスーパーパワーであった時代は、すでに終焉を迎えたからだ。今から35年前、戦後知識人の巨人こと江藤淳が憂慮した点もまさにそこであった。「このままでは、敗戦で肉眼を抉られた日本人が、米国産の義眼を装着し続けるだけだ」と。自立する気概なくして、日本が「自分で自分を守れる国」に脱皮する日は半永久的に到来しない、と嘆きながら同氏は鎌倉で自死したのだった。その江藤の遺志を、果たして我々現代の日本人は受け継いでいるのだろうか?!

私事で恐縮だが今月半ば、光栄にも尊敬する百田尚樹氏と対談させて頂いた。その席で百田氏が「戦後占領下日本において7年間行われたWGIP (War Guilt Information Progam) により、日本人の国を愛する心は徹底的に、かつ計画的に米国によって破壊されてしまった」と嘆かれたのが印象的であった。「でも私個人に関しましては、朝日新聞との潰し合い合戦で、ええ、当然先にやられちゃうでしょうがね!あっはっはー」といった豪快なユーモアを連発されていたのも、実に最高であったが。ちなみに百田先生は、実物に会うと「ローマの休日」主演のGregory Peckと、「寅さん」の渥美清を足して二で割ったような「スーパーダンディ」な紳士であることが分かる。しかもご存知の通り、本当に日本のことを愛している侍でらっしゃる。つまりやはりテレビや新聞などの「国内の敵」が発信する情報を鵜呑みにすると、史上最低の総理大臣と同じく「鳩ぽっぽ化」してしまうなあ、と改めて納得した "うるさい日本人" であった。



たかが歴史、されど歴史。TRUTHを伝えることを極めて重視している者として、 プラザ合意ならぬ「12.28 フライング合意」は、懐かしきスプリンター Ben Johnsonの如き。とはいえ 「合意のオムツ」を穿いてしまった以上、そこから今後滲み出るであろう汚物排泄物は、 もう福島の汚染水と同じく垂れ流し続けるしかあるまい。即ちそれは、日本人各自が「情報の防護服」を身にまとう必然性を意味する。歴史を、それも特に1868年明治維新以降の近代史を我々は今こそ学ばねばならない。それなくして、海外特に中国との宣伝戦争において勝ち目は無い。



みなさん、今年も本当にありがとうございました!

来年は猿年、MONKEY MAGIC. ええ、四人に1人が65才以上の世界初、世界最速、世界最高の「モンスター高齢化ジャパン」を楽しくすべく、次々とマジックを仕掛けさせていただきますよ。

素晴らしい新年をお迎えください!


Thank you very much, and a HAPPY NEW MONKEY 2016!



谷山雄二朗 - Editor in chief for JB 編集長



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ショートフィルム「ペリリュー島のキリンビール」
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