2019 ごあいさつ 「ロシア人 プルシェンコと考えた、北方領土の解決法」 谷山雄二朗

Editor in Chief Yujiro Samurai Taniyama

猪突盲信。

これだけは気をつけよう、平成三十一年!

明けましておめでとうございます。みなさんにとって、2019年が好色ならぬ好運なる一年になりますよう、心よりお祈りもうしあげます。いや、もちろん前者でもまったく構いませんが。

お正月早々、元ロシア人のフィギュアスケーター、エフゲニー・プルシェンコ氏を TOKYOの某路上で「発見」した。と思いきや、彼のそっくりさんであった。話しかけると、モスクワから二週間の旅に来ているという。ひとり旅か。「京都は行ってきました」、というので「そうか、広島も?」と尋ねると、“プルシェンコ”は、申し訳なさそうに首を横に振った。

日本史上初、訪日客が3000万人を突破した2018年。

あいにくロシア人は、上位20位にランクインしていないが、それでもうれしいじゃないか。わざわざ1万キロも離れた遠い彼方から飛んできてくれるとは。しかも、費用がもっともかかる年末年始に。芸名はさておき、彼は本名も教えてくれた。ただ、ここではプルシェンコ、ないしは単に「プル」と呼ぶことにしよう。

青空の下、その時、ふと彼に本音を聞いてみたくなった。何を隠そう、北方領土に関するロシア人の思いを、だ。報道によると、日露間で同問題の交渉が進んでいるという。複雑怪奇なイッシューであることは、今更述べるまでもないが、歴史に名を残したい我が国の首相と、お金と経済援助を引き出したいプーティン氏の2名を「盲信」し、すべてを委ねることは危険極まりない。国民一人一人が、しっかり「べべ・プーティン」両氏にプレッシャーをかけることぞ、健全なDemocracyなのだから。

僭越ながら事前に読者に伝えておくが、ぼくは「50%領土面積OK派」だ。つまり、歯舞島、色丹島、国後島の三島返還ならOKだと思っている。これまでの歴史的経緯から考えても、四島すべてなど、リアリティにかける。国際社会からはクスリをやっているか、精神鑑定が必要かと思われるのがオチだ。

「北方領土については知ってるよね?率直にどう思ってる?」

と、プルシェンコに早速切り出してみる。

3.5秒ほど考えた彼は、涼しげな表情で言う。「ああ、まず言えることはね、あの島々は前の戦争の結果、正式にロシアのものになったものだと言うこと。つまり、我々の領土だってことさ」

想定内の答えがかえってきた。

「たしかに、それは歴史的な事実だね。ただ、キミのグレートグランパ世代のスターリンさんと、1941年の日本政府は日ソ中立条約ってヤツを当時結んだんだぜ。つまり、相互不可侵。効力は5年だから、本来ならば1946年4月までは有効のはずだった。戦時中は常識など通用しないとはいえ、それを一方的に破棄したモスクワも問題じゃないかな」

さすがのプルも、スケートリンクで一休みするかのように一瞬、無言になり、微笑を浮かべた。まあ、それはそうだけど、と言わんとするかのように。いずれにせよ、一般的な二十代、三十代(彼はどちらかだとおもう)のロシア人の感覚では、北方領土四島は「自分たちが正当に戦争で得た領土。即ち、戦利品」との見方が多いのかもしれない。少なくとも、学校ではそう教えられているにちがいない。

ぼくは、立て続けに質問を連発する。

「もしも、君の国のプーティンさんが歯舞島と色丹島をまず返還すると言ったら?」

プルシェンコ、苦笑いしつつ、「国内ではネガティヴな反発があるだろうね」

「暴動が起きる? 君も激怒しますか?」

「いや、そこまではないと思うけど、彼の人気は急落するとおもうな」

「なるほど。でも、ぼく自身の考えとしては、柔道家でもあるプーティンさんが以前言った “引き分け”、という言葉を鑑みて領土をequalに50%づつ分けるのがベストだと考えている。つまり、歯舞と色丹だけでは全体のたった7%に過ぎないから、それに国後島を足しても45%ぐらい。つまり三島返して欲しいんだよプルシェンコ!」

ロシア人青年の反応を興味深く見守りつつ、ブチ切れるかと思いきや、ぼくの反応はあっさりと裏切られた。頭脳明晰なニオイのする、英語を巧みに駆使する(露国は母国語しか喋れない連中も多い)彼は、冷静な口調でこう言ったのだ。

「領土面積は、べつに重要じゃないんだ。一番大切なのは、海域なのだから」

「T……territorial waters?」

「そう、その周辺の海。つまり、返還後の領土に軍事基地が設置されないこと、それがもっとも重要なんだ」

フィギュアスケーターとは思えない博学ぶり、ではないスケート靴のブレードのごとく鋭い視点の持ち主ようだ。かつてマオ・アサダとペアエキシビションで、ペアを組んだだけある。

「ほら、北方領土が沖縄みたいになっちゃ困るということでさ」、とプルはさらに米軍基地の島に成り果ててしまったOKINAWAを例に出してきた。ぼくも、待ってましたと言わんばかり飛びかかる。

「Japanというのはじつにカッコ悪い国でね、そう、神さま、アメリカさま、米軍さまで、安全保障を戦後ずっとホワイトハウスに依存してきている。自分で自分を守れない、かなり弱っちい国家であることは否定しようがない。簡単な話、主権国家じゃないんだよ!」

プルは、口をタイトに結び、頷いている。

日本が、事実上米軍の占領下にあることをきっと知っているのだろう。思えば、ロシアのプーティン大統領も「日本に果たしてどれだけ主権があるのかわからない」、と最近述べたとのメディア報道をどこかで読んだ。つまり、裏返せばアメリカ合衆国が我が国を占領している(情けない話だが)というこの実態を、同氏は敢えて指摘したわけである。そして、歯舞や色丹を返還しようものなら、そこに新たに米軍基地が設置されるのではないか、と懸念しているわけだ。まったく筋の通った話であり、十分に理解できる。

ぼくは、反米でも抗米でも反トラ(Trump)でもないが、単純に日本にはアメリカの基地が多すぎると考える者だ。そのことは、これまでも繰り返し述べてきたし、いい加減わが国の政府や外務省は軍事的に自立すべきだとおもう。日米安保条約は堅持しつつも、その中身を抜本的に21世紀型にチェンジせねば、Japanは米国の51番目の州に堕ちるしかない。だって読者諸君、戦後74年も経つと言うのに未だにこの国には130もの米軍基地があるんですぜ。横田基地一つとっても、東京ドーム157個分のみならず、その上空、つまり「横田空域」なる東京、三浦半島、埼玉、静岡、群馬、千葉、栃木、長野、そして新潟の空は未だにアメリカ合衆国が「占領」していて、JALやPEACHが自由に飛べないっていうのだから、もう情けないったらありゃしない。

安倍首相も、政府も結局は何でもかんでもホワイトハウスの言いなりで、妾そのもの。横田空域の返還さえも言えないどころか、トランプに一方的に「貿易不均衡」を指摘されただけで、一機100億〜約180億円もするとされるF35を、142機も購入すると昨年末に決定した政府の弱腰っぷりには、空いた口も塞がらない。そのような安易な手法ではなく、国家予算を少子化、教育に使うべきではないか。国産の戦闘機の開発費にお金をまわすべきだではないか。Japanの防衛産業を育むためにも、である。ぼくは反アベでも、反アッキーでもなんでもないが、首相のアキレス腱はアメリカ合衆国への過度のへつらいにあると考えている。憲法改正に取り組む姿勢は、素晴らしいとおもうが、それでもホワイトハウスへのゴルフキャディーのような太鼓持ち態度は、Japanを危うくする。

どんなキャディーでも、ゴルフのスコアを誤魔化してはならない。

それを裏付けるかのように、”プルシェンコ”が、北方領土に関する会話のなかで出してきたのも、「米軍基地」であった。早い話、20代のロシア青年でさえ、わが国を独立国家と見なしていないということなのかもしれない。トランプが「歯舞にU.S baseを作ろう」といえば、簡単に出来てしまうと憂慮しているのだから。日本政府には拒否権がないと、見透かしているのだから。われわれ日本人は、Japanが抱えているこの戦後の茶番を決して見過ごしてはならない。しかも、ぼくが読んだいくつかの記事では、首相はアメリカに対し「北方領土が返還された場合、そこに米軍基地は、作ってはならない」と通達していないという。これが事実だとすれば、恐るべき妾と言わざるをえない。いくら日米地位協定という、摩訶不思議かつ不平等な「アメリカ軍やりたい放題OK」協定があるとはいえ、それを抜本的に改定せず、ただ奥さんアッキーに頭が上がらない(と仮定しよう)ように、米軍にも言うべきことを言えないのだとすれば、総理大臣としての質に欠けないか。高杉晋作、伊藤博文、東郷平八郎といった独立自尊の志士たちに、あの世でどう顔向けができようか。

プルシェンコは、言った。

「北方領土にアメリカの軍事基地を置かないとの確約がない限り、このネゴシエーションは不可能だと思います」

「まったく同感。ましてや現職は “Unpredictable” なトランプ大統領。ロシアの懸念は十分に分かるし、それはJapanが主権国家として、アメリカ合衆国に明確に伝達する責任がある」

「そこは、極めて大事だね」

「もちろん。ちなみに、国後島と択捉島にはロシア軍が基地を設置している。ぼくは、国後を含む3島は返還してほしい。ただ、歯舞、色丹、国後島のロシア人の住民の方々には今のまま住み続けていただいても構わないし、例外措置として彼らには日本へも自由に航行できるDual Passsport 制度を認めてもいいとおもう」

白い歯をみせる、プル。そして言う

「Peacefulな島々にしたいね」

「もちろん。三島返還、領土面積をほぼ50%で折半がぼくの希望だ。その代わり、economic assistance and investment も行う。そして返還後は、日本軍基地も、米軍基地も置かない。平和的な国後島、歯舞島、色丹島にしたい」

日露戦争風、外交全権大使 “小村雄二朗”と、”プルシェンコ・ヴィッテ” ならぬ、なんの外交的権限もない日本人と、ロシア人が、Tokyoの青空の下、「新年ストリート会談」で合意の握手をした瞬間であった。

ちなみに、最後に彼が放ったある言葉が印象的だった。

「Russiaは、ご存知のとおり領土はゴマンとあるんだ。だから、今回の北方領土なんてちっぽけで正直、どうでもいいといえばそうかも」

おそらく、モスクワの人々の本音だろう。

彼らにとってのKURIL諸島とは、江戸時代の江戸っ子らからみた蝦夷地ぐらいの僻地なのかもしれない。そう考えれば、日本側は決して自国領土を安売りしてはなるまい。しかも、ロシアは今、原油価格の低下もあり経済的に困窮している。一部のメディアで囁かれている2島返還論でサインしようものならば、ハイボールならぬ敗北だ。つまるところ、われわれ国民は、政府が安易に妥協せぬよう監視する必要がある。領土面積50%は返還させる3島返還論は、なにも絵に描いた餅ではない。

前述したF35を、142機購入した場合、費用総額はじつに2兆円を超えるとも言われる。それだけのお金があるのならば(実際には、すべて国債発行の借金だが!)、仮にその半額を、ロシアへの投資に回し、その結果国後島、歯舞諸島、色丹島がJapanに返ってくるのであれば、日本国民は十分に納得すると思うのだがどうだろう。

少なくとも、ぼくは首を縦に降る。

外交下手な日本人よ、拙攻はこの際つつしもうじゃないか。このお正月、箱根駅伝で初勝利した東海大学も、確か後半で逆転し栄冠をつかんだ。粘っこく、毅然といこうじゃないかJapan 2019.

猪突盲信ではあぶない。批判精神こそが、わが国を強くする。

Thank you.