"観光外交"の時代へ。「日中関係」について質問してきた、20代の中国人プウヨー  
  Aug. 19th, 2015         JB's Editor in Chief 谷山雄二朗





「1995年にスタートした江沢民式反日教育 - を受けた2人の中国人との対話」


たった今、JBで始めた新番組 LinkIcon“Bullshit Japan” の撮影から帰って来た。 最後に突撃インタビューしたのは、20代の中国人男性2人だった。
初来日で、一週間ほど日本に滞在するという。
「ニッポンの3つの最悪」を教えてください! と、ぼくはいつも通り切り出したのだが、彼らは真剣に答えてくれようと 「日本のサイアク!??! ちょ、ちょっと考えさせて」、とリアルに思い悩んでいる様子だ。

詳しくは、後日、Team JBでアップロードする映像をご覧頂くとして、 「ハプニング」が起きたのは、撮影クルーがカメラを回すのをやめた直後だった。


「今の中国とニッポンについて、どう思いますか?」 と、突然聞いて来たのである。

2人のうち、痩せ形をここでは「のび太」、大きい方を「ジャイアン」と呼ぶ事にする。というのも、「オレはドラえもんが大好きなんだ」とぼくが言ったら、彼らもじつはファンだと言い張ったからに他ならない。そう、ドラさんは中国大陸でもビッグスターなのである。 とにかく、笑顔から一転、ジャイアンのほうが上記の「日中関係の質問」をいきなり聞いて来たわけだ。
「核心」に向こうから斬り込んできた と考えていいだろう。当然ぼくは一瞬驚いたが、深呼吸を三度してから口を開いた。


「日本と中国は、プウヨー(PONGYO = 友達)であるべきです。中国は実に大きな国であり、様々な考えの人がいることは、承知しています」 野武士・谷山雄二朗の答えを聞くジャイアンとのび太の表情は、真剣そのものだ。
ぼくは間髪を入れず、さらに吠えた。 「これまで上海や、北京や大連や審陽など、ぼくは何度も中国に行きました。ただ、ホテルのTVをつけると必ず日本軍人を悪魔に描 いた反日ドラマを放映している。戦後七十年も経つのに、未だにこういうことをしていたら、両国の関係が良くなるはずがないと思うよ」

するとのび太が、頷くようにして言った。 「History. 歴史、ですね」 。
歴史問題が、両国の喉に刺さった刺であることは、彼も充分に理解しているのである。ただ、ここで重要なのは、それに対する両国民の認識の違いだ。決して英語を得意としない2人の中国人だが、なんとか意思の疎通をせんとする彼らの一生懸命な姿に、ぼくの胸は熱くなった。話し合い、誤解を解く。それぞ未来志向へのキックオフではないだろうか。
そして、ぼくは率直に自分の意見を放った。

「その通り。歴史を学ぶことは極めて重要ですが、今の中国の歴史教育は明らかに偏っているとぼくは考える者です」






「のび太が放った、意外なる言葉」


畳み掛けるようにして、ぼくは続けた。
「ご存知か知りませんが、日本はこれまでに幾度として中国政府に対し謝罪してきました。にもかかわらず、戦後七十年も経った今に なっても中国は謝罪が足りない、という。これでは関係修復のしようがありません。そう思いませんか?」
20代の中国人、ジャイアンとのび太は何かを言わんとしているようだが、そこまで得意としない言語ということもあり、伝えたい言葉そのものは喉の手前で詰まっているようだ。ただ、彼ら が今の両国関係を改善したいと切望している熱意のようなものは、自ずと伝わってきたのも事実だ。それが冷めぬうちに読者にその 「熱」をデリバリーせんと、ぼくはこうして直ちにMacに向かっていることも告白しておきたい。

しばらく続いた沈黙を、破ったのはのび太だった

“Chinese people have to change their mind”.

まったく予期せぬ言葉を、野比のび太が放った瞬間だった。「中国人は、物事の考え方を変える必要がある」 - 彼は、明確にそう言っ たのだ。これまで沢山の中国人と、ぼくは会話をしてきたが、平然かつ冷静にこう言いのけた中国人は、のび太が初めてであった。 ぼくはもちろん相槌を打った。 「ええ、まったくそうして欲しいものです」
すると、ジャイアンがフォローする。
「これまでとは違い、今の若い中国人の意識は昔とは変わって来ているんだ。これからは中国と日本はもっと仲良くなれると思うよ」。 そうなのか、と思いつつも、ぼくはこう切り返した。 「未来志向の日中友好。じつに素晴らしいね。ただ、そのための必要最低条件として、中国共産党指導部が問題意識・物の考え方をある程度変える必要があるんじゃないかな。今の彼らの強行姿勢のままでは話し合いにさえならないよ」

結局のところ、中国のテレビで四六時中放映している反日ドラマは、そうした中共が編み出した戦略であり、反日教育の一環だから だ。果たしてぼくの目の前にいる中国人2人が、そのことをどれだけ気付いているかはさておき、1995年5月に当時の江沢民中国国家 主席が「日中戦争で亡くなった中国人犠牲者の数は、3500万人である」との根拠不明の数字を捏造してから、この反日教育は急加速を見せ今日に至る。ご参考までに述べておくが、戦後間もなく、東京裁判時に当時の中国政府(国民党)が出した数字は「犠牲者320万人」であった。それを戦後七十年経った今、十倍以上上回っている。これが捏造されたモンスター数字であることは、強調しすぎることはない。


とはいえ、それは何も日本軍がかつて中国大陸で行ったことすべてを決して正当化するものでもない。現に2005年〜2006年にかけて行われたの読売新聞の「検証 戦争責任」では、1931年9月18日に起きた満州事変が「日本軍の若い、過激な一部の軍人たちの手によって仕掛けられた」と記述されている。こうした点は、先日発表された総理の「安倍談話」にもあったように "歴史に真っ正面から向かわねばならない" ことは言うまでもない。


中国人観光客を、「爆買い」だけで片付けてはならない


とはいえ、それは何も日本が半永久的に国際社会に対し「謝罪」を続けるということを意味しない。

今回、ぼくにとってビッグなサプライズだったことは「江沢民反日教育」を受けてきたはずの「郷田たけしと、野比のび太」が、日中友好を心底欲している、という姿勢を明確に見せてくれたことだった。彼らのその勇姿に、その眼には嘘は無かった。しかも後者が、その後もう一度念を押すかのように「中国人が、意識を変えねばならないんだ」と断言したことに、ぼくは 少なからぬ衝撃を受けたのだった。

果たして今のこの国で、どれだけの日本人の若者が日中友好についてジャイアンとのび太の如く真剣に考えているだろうか!? だいいち、上海や大連など中国現地で「日本と中国の今の関係についてどう思いますか?」と逆質問できる20代の日本人がどれだけいるだろうか?! おそらくゼロにちがいない。

財務省が今年上旬に発表したデーターによると、2014年の日中貿易総額はじつに32兆5550億円5550億円。過去最高の数字である。そして日本にとって中国は、最大の貿易相手国なのだ。だからこそ、歴史問題があろうと、ホテルのロビーに深夜三時に中国人観光客がジャイアンの如く大声で歌いだそうと、現実問題として腹をくくり毅然として付き合っていく必要があるのだ。少なくとも、今回ぼくがインタビューした中国人の2人は、その「アジアBIG2」の関係の重要性を充分に認識している - その度量の大きさがあるように思えた。でなくして、どうして「今の日中関係についてどう思いますか?」などと聞いてこようか。

言うべきことは、いう。話し合いによって理解すべきは、そうする。それがこれからの21世紀の日本人の姿であるべきだ。「沈黙は美徳」の時代は、とうの昔に終わった。今や「沈黙は、悪徳」であることを、我々は肝に銘じねばなるまい。



「色々あるけど日本の人々は、本当に親切だよ!!!」
 2人は興奮気味に白い歯をみせる。
おそらく、彼らは初来日し、”本物の日本人”たちと初めて触れ合い、本国で教わっている日本のイメージと現実が大分異なることに 気付いたのかもしれない。百聞は一見にしかず、ではないが外国人観光客が訪日してくれることは、経済効果のみならず「親日効果」にも直結するということに、我々は気付かねばならない。だからこそ、50年、100年といった大局で物事を考えた場合、やはり一人でも多くのチャイニーズに訪日してもらうことは「日中友好にも直結」する、とぼくは考える者である。

「中国人は、嫌いだ。来て欲しくない」- との残念な声が、国内の方々から聞かれることをぼくは憂慮する者だが、日本一国で生きて行くことなどこの21世紀は不可能なのだ。そういう時代に、ぼくらは生きている。よって鎖国思考を脱し、現実的な日中友好の「解決案」を模索していく必要があろう。そしてその突破口の一つは、先述したタイトルの通り草の根レヴェルでの交流を一層活発化させていくことなのである。

(編集部注:トイレを流さなかったり、チケット売り場で割り込んだりする中国人観光客は、言語道断です。当然ながら厳重に注意する責任が日本人にあるのではないでしょうか。それを大半の日本人が見て見ぬフリをしている現状も、"日本人として”無責任デース!)






本当の未来志向。それは、メディアに惑わされないことである

いや、もしかしたら今回の2人は、じつは来日前から、本国政府の反日教育を懐疑的かつ冷静にみている「21世紀型中国新ネット世 代」なのかもしれない。その可能性も充分にある。どうであれ、日中対立をむやみに煽り立て「ニュース性」を高めんと意図的に必要以上に報道している両国 の大手メディアとは異なる「日中の血の通った草の根コミュニケーション」が、今後、決定的な意味合いを持つであろうことを痛感した筆者であった。

Twitter, Facebook, YouTubeが閲覧禁止の国とはいえ、何が真実で何が虚偽かに対する研ぎ澄まされた感性を、そして「真実への渇望」を、今の若いチャイニーズ世代は持っている。最近の天津弾薬爆発事件の一連の流れを見てもわかるように、彼らは中国当局でさえも懐疑的に見ているのだから。人口が13億人いる国だからかもしれないが、優秀な中国人も極めて多い。釈迦に説法かもしれないが、このままでは、日本は正直危うい。そんな気がしてならない。

権力者による汚職、公共の利益を度外視した企業の環境汚染、必要以上の貧富の格差;
この3つの社会不安は、今後も隣りの大国指導部にとって悩みの種であり続けるであろう。そのガス抜き策としての反日が、通用しなくなる時代はもしかしたら 予想以上早く到来する可能性もある -  そう単純ではなかろうが、一瞬とはいえ、ふと、そう楽観視せてくれる今回の愉快な2人;「ジャイアンとのび太」との心地よい遭遇であった。


ウーロン茶、万歳!
ドラえもん、万歳!


謝謝。




谷山雄二朗 - Editor in chief for JB